いー君といっしょ

2015年11月20日……
最愛の17歳の息子を自死で失いました。
悲しみの記録と、彼の歩んだ道、そしてこれから残された家族三人の日々を記します。

君がいた部屋の窓の向こうに

いい天気の日々が続く。


いー君の部屋は『あの日』のまま。


なにも増えていないし、なにも減っていない。全てはあの日のまま。


部屋のドアを開けるたび、彼の懐かしいにおいがする。


天気のいい日は換気をしてあげるんだ。


窓の外には、月桂樹の新緑の若葉。


冬の間に、カイガラムシにやられてしまっている枝を、僕がバッサリ落したんだ。


でも月桂樹は負けなかった。


ほとんど丸裸だった月桂樹の樹は、春を過ぎて瞬く間に元の姿を取り戻した。


君が窓から見ていた景色……


そしてたぶん首をくくった位置から最後に見えたであろう窓の外の景色。


君の姿が変わり果てても、窓の外は君のいた時の景色のまま。


12年前、この家を買った時……君は楽しそうに走り回っていたよね。


この部屋は僕の部屋だよね!……君は眼を輝かせてそう言ってたっけ。


そう……


君だけの部屋さえなかったら……君が独りになる空間さえなかったら……


小さな1部屋で貧しい暮らしでもよかったんだ。


君が独りになって死ぬ空間さえなかったら……


全ては結果論かもしれないのは分かってる。


今日も窓の向こうの景色は、いつもと変わらないまま。


そして君がいないという現実も、いつもと変わらないまま。


君さえいてくれたなら。君さえ生きてくれさえいたら。


窓の外の景色なんかどうでもよかったことなのかもしれない。


明日僕が目覚めても。


明後日僕が目覚めても。


窓の外の景色はいつものまま。


そして君のいない現実も、いつものまま。


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カバーをかぶったままの君の自転車

いい天気。


庭にもまだちょっと早いけど初夏の気配。


ウチの玄関の前には自転車が2台。


ひきこもったまま不登校の娘の自転車と……


そして君という主人を失ったもう一台の自転車。


鼠色のカバーをかぶったまま、2度とだれも乗ることもなく、静かにたたずんでいる。


君が学校に行っていたあの日の自転車。


サドルをバカみたいに高くして乗ってたよね。危ないといっても聞かなかった君。


交通事故にあってもしものことがあったらどうする!……って僕は怒ったけど。


もしものこともなにも……そんなことと比べ物にならないかなしい逝き方。


もし……


もしだよ。


交通事故で君が死んだなら、ちょっとはあきらめがついてたんだろうか。


運転手を一生恨んで、泣いて叫んで……


いや……


君が選んだ道なんだよね。死に方にどっちもいいもへったくれもないよね。


動かない自転車。


君を乗せて走ることもない自転車。


いつまで置いておけばいい。


ずっと置いておくべきなんだろうね……君が生きた証に。


もう2度と……


このまぶしい太陽の光も受けることなく。


鼠色のカバーをかぶったまま、静かに終末の時を待つ自転車。


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君の横には彼はいなくて

不登校の中学校の娘が、最近子供の時に抱いてたお人形さんと寝るようになった。


幼児返りなんだろうが仕方ない。


いー君が生きていたときは、良く小競り合いがあって泣かされていた娘。


いま、娘の横にはだれもいない。喧嘩する相手もいない。


ただお人形さんだけが、彼女の支えなのかもしれない。


兄妹……この世でたった一人だけのお兄ちゃん。


遺書になにも書かれずに逝かれた、娘の寂寥感はいかほどのものか。


昼間は誰もいないリビング。お兄ちゃんの遺影がかかったリビング。


彼女の心の傷を僕は癒してはあげられないのか。


今日も娘は一人ぼっちで、リビングで過ごす。


お兄ちゃんの遺影の中の笑顔。それだけが彼女の心の支えなのかもしれない。


今日も娘は一人ぼっち。


お兄ちゃんがいなくなって一人ぼっち。


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