カバーをかぶったままの君の自転車
いい天気。
庭にもまだちょっと早いけど初夏の気配。
ウチの玄関の前には自転車が2台。
ひきこもったまま不登校の娘の自転車と……
そして君という主人を失ったもう一台の自転車。
鼠色のカバーをかぶったまま、2度とだれも乗ることもなく、静かにたたずんでいる。
君が学校に行っていたあの日の自転車。
サドルをバカみたいに高くして乗ってたよね。危ないといっても聞かなかった君。
交通事故にあってもしものことがあったらどうする!……って僕は怒ったけど。
もしものこともなにも……そんなことと比べ物にならないかなしい逝き方。
もし……
もしだよ。
交通事故で君が死んだなら、ちょっとはあきらめがついてたんだろうか。
運転手を一生恨んで、泣いて叫んで……
いや……
君が選んだ道なんだよね。死に方にどっちもいいもへったくれもないよね。
動かない自転車。
君を乗せて走ることもない自転車。
いつまで置いておけばいい。
ずっと置いておくべきなんだろうね……君が生きた証に。
もう2度と……
このまぶしい太陽の光も受けることなく。
鼠色のカバーをかぶったまま、静かに終末の時を待つ自転車。
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