君がいた部屋の窓の向こうに
いい天気の日々が続く。
いー君の部屋は『あの日』のまま。
なにも増えていないし、なにも減っていない。全てはあの日のまま。
部屋のドアを開けるたび、彼の懐かしいにおいがする。
天気のいい日は換気をしてあげるんだ。
窓の外には、月桂樹の新緑の若葉。
冬の間に、カイガラムシにやられてしまっている枝を、僕がバッサリ落したんだ。
でも月桂樹は負けなかった。
ほとんど丸裸だった月桂樹の樹は、春を過ぎて瞬く間に元の姿を取り戻した。
君が窓から見ていた景色……
そしてたぶん首をくくった位置から最後に見えたであろう窓の外の景色。
君の姿が変わり果てても、窓の外は君のいた時の景色のまま。
12年前、この家を買った時……君は楽しそうに走り回っていたよね。
この部屋は僕の部屋だよね!……君は眼を輝かせてそう言ってたっけ。
そう……
君だけの部屋さえなかったら……君が独りになる空間さえなかったら……
小さな1部屋で貧しい暮らしでもよかったんだ。
君が独りになって死ぬ空間さえなかったら……
全ては結果論かもしれないのは分かってる。
今日も窓の向こうの景色は、いつもと変わらないまま。
そして君がいないという現実も、いつもと変わらないまま。
君さえいてくれたなら。君さえ生きてくれさえいたら。
窓の外の景色なんかどうでもよかったことなのかもしれない。
明日僕が目覚めても。
明後日僕が目覚めても。
窓の外の景色はいつものまま。
そして君のいない現実も、いつものまま。
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