いー君といっしょ

2015年11月20日……
最愛の17歳の息子を自死で失いました。
悲しみの記録と、彼の歩んだ道、そしてこれから残された家族三人の日々を記します。

杞憂と笑う周りと、鬼幽に嗤われる僕と

杞憂……


馬鹿だね、子供が先に死ぬはずないじゃない。


去年の今頃の僕は、そんなことを当たり前に考えていた。


自分の子供が先に逝く……


そんな心配をする親なんて『普通』はいない。


市井に生きる『普通』の人々の脳内に、そんな考えはありはしないんだろう。


僕もそうだった。


『起こりうる絶対に起きてはならない出来事を、思いつくまま書け』


そんなことを言われたとしても『子供が自死すること』なんて絶対に浮かばなかった。


もう娘の学校は夏休み。


僕はいつものように、家に帰ってきてリビングのドアを開けた。


娘がソファーに横たわっていた。


目が開いたまま……首にイヤホンのコードが巻きついて。


心臓が止まった……


時間が止まった……


大声をあげたら、びっくりした表情で娘が跳ね起きた。


よだれを垂らして気楽に昼寝だ。気楽なもんだ。


普通の家庭だったら、目を開けて寝るなよ、気持ち悪い……と笑い話だろう。


でも僕には……


笑えないよ。


一生……未来永劫こんなことで笑えはしない。


ビックリした……血が凍るとはこのことだ。


普通の人が触れることのない、若き自分の子供の死……


僕は、鮮血が音をたてて流れる『死の淵』の隣を死ぬまで歩かなきゃならない。


最後の子供が死んだらどうしよう……


最後の子供が死んだらどうしよう……


最後の子供が死んだらどうしよう……


最後の子供が死んだらどうしよう……


一生そんなことをつぶやいて、薄暗い死の淵を歩き続ける。


鬼幽の罵りと笑い声を背に受けながら、暗い暗い荒れた道を歩き続けるんだ。


そんな僕の姿を、光の祝福を受けた市井の人々は指をさして笑うだろう。


考えすぎだ、怯えすぎだ……そんなことが起こるはずがない、杞憂だと。


僕は幽鬼のように、それでもずっとよろよろと歩き続けるんだ。


最後の子供が死んだらどうしよう……


最後の子供が死んだらどうしよう……


最後の子供が死んだらどうしよう……



最後の子供が死んだらどうしよう……


そう呟きながら、ずっとずっと暗い道を。