夢を見た。

娘が……まだいるはずがないと信じたいけど、台所で彼氏とスマホで話していた。

僕が話しかけると、ムッとした表情で電話を切った……ただそれだけの夢。

でも起きてから、ものすごく怖くなったんだ。

そう……いつかは娘もまた、恋をするということ。

いー君は、恋をしたゆえに死んでしまった。

きっとただのきっかけて、根深い何かがあったにしろ……恋のせいで命を絶った。

彼女を恨んでいることは決してないんだ。

でも、逢わなけりゃ……会うことがなけりゃもしかしたら生きていたかもしれない。

怖くなったんだ。

娘がいつかまた恋に破れたりして、もしものことを考えてしまうと。

そう考えたら、娘の『もしも』が沢山浮かび上がった。

犯罪に巻き込まれるかもしれない。

学業に悩んで追いつめられるかもしれない。

娘に『もしも』が起こるたくさんの要素……

今の僕はベストが尽くせてるだろうか。

避けられない『もしも』が起こった時、僕には何が残されるんだろうか。

怖いんだ。『もしも』が怖い。

じゃあ、どうすればいい……

絶対起こらないという保証のない『もしも』。

なんとか娘だけは……

親の勝手かもしれないけど、子供が出来なくたって構わない。天寿だけは全うさせたい。

僕は電車の中で、どうすればいいんだとボーっと考えて車窓からの風景を見ていた。

前の座席の空席には、いー君が……

とっても小さないー君が、スヤスヤ寝息を立てて居眠り中。

どうすればいいのかな……

僕は心の中でいー君の頭をなでながら、小さくつぶやく。

大丈夫だよね、いー君がいつも妹のそばにいてくれるから。

信じなきゃ……

『もしも』は絶対起こらない。そう信じなきゃ。

僕がしっかりしよう。

妻と娘の手をしっかり握って、向かい風の中をしっかり歩いて行こう。

そして僕の方には、肩車にはしゃぐいー君がいる。

めちゃくちゃに髪の毛を引っ張り、一点の曇りもなく笑ういー君がいる。

歩くんだ。

そう、３人じゃなく家族全員の４人で……いー君はどこへも行っていない。

しっかりしっかり、日々の楽しいことも悲しいことも乗り越えていこう。

悲しみ……？

大丈夫だ。いー君はどこにも行っていない。悲しむ必要なんかどこにもない。

さあ、明日もいー君と電車で街に向かわなきゃ。

いー君を自転車に乗せて、朝焼けの道を進まなきゃ。

梅雨が明けたら、セミが鳴きはじめるね。

君の好きだった夏の季節。

君が行きたがっていた、海に釣りに行こうね。