何も伝えることはなかったのかい?
いま……初めて気づいた。
遅い……遅すぎる。自分の朴念仁ぶりが嫌になる。
そうなんだ……いー君は、妹になにも書き遺していない。
僕たち両親だってかろうじて3行の遺書だ、それでもあっただけましかもしれない。
妹は……なにも書き遺してもらえなかった。
いー君、あわてん坊だし、余裕がなかったんだよね。
せめて何か……遺してあげてほしかったな。
君の妹の横顔がとっても寂しそう。
何か残すことはなかったのかい……
あれだけ仲の良かった妹なのに。
そうなんだ……
彼女は心の闇と寂寥感を抱いたまま、残りの人生を送らなきゃならないんだ。
あえて何も遺さなかったのかな。答は君だけが知っているよね。
ずっとやさしく見守ってくれるから、言葉なんか不要だったのかな。
護ってあげてね……大切な人が出来て、一人で歩きだすまで。
護ってあげてね……君が遺せなかった子供を……彼女が身に宿すまで。
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