日にち薬では完治せぬ病
子供を失ってから結構な月日が流れた。
低空飛行ながらも、家族はそれぞれに日にち薬が効いてきた……気がする。
だけど、完治はしない。永遠に。分かっていることだけど……
世の中に流れてくる悲しいニュース。
子供の無垢な命が失われるたび、自分の子供のことを思い出す。
うちの子供の死も……僕にとっては人生最大の悲しみだけれども……
たぶん……きっと、世の中じゃすぐに忘れられるニュースの一つなんだろう。
現場を検分した刑事さんも……
救急車で心臓マッサージをした救急隊員さんも……
臨終を宣告したお医者さんも……
お経を上げた住職さんも……
誰もかれも、もう息子のことなんか覚えていやしないだろう。
残っているのは、僕たち家族の心の中にだけ。
死の引き金になった息子の彼女の心の中には残っているのかな……
あと何年かが立てば……きっと霧のように彼女の心の中から消えてしまうのかな。
忘れようとしては思いだす……
忘れようとしては、また思い出す……
たぶん、日にち薬の効用はこれが限界。
たぶん、今夜も、明日も明後日も……
忘れようとしては、また思い出すんだろう。
救急車のサイレンの音。土気色になった息子の脚。泣き叫ぶ妻の声。
一生、死ぬまで思いだすんだろう。
あの日のことを。
忘れちゃいけない、あの日のことを。
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