君が毎日通った軌道の上で
毎日毎日……
もう何か月同じ電車で同じ場所に通っているんだろうか。
これまでの人生ほとんど自動車通勤だった僕が電車にこれだけ揺られるのは、社会に出たての銀行員の頃以来だ。
心の中で割りきれているはずなのに……
息子と同年代の子たちを見ると、何となく胸が痛いんだ。
かすかに見覚えのある、通学用バッグ。
目をやるといー君の母校だった学校の文字。
痛い。
心が痛いんだ。
なんで褒めてあげなかったんだろう。
なんで認めてあげなかったんだろう。
県内トップの成績でありながら、スマホを買うとともに急降下した成績。
そして志望校に落ち、滑り止めのこの高校に通った。
それでもそこそこの凄い高校だったのに。
なんでよくやったね、って頭を撫でてあげなかったんだ。
いいんだよ、って抱きしめてやれなかったんだ。
彼の僕らに対するたった三行の遺書。
志望校に行けなくてすいませんでした。
……後悔。
……後悔後悔後悔後悔後悔後悔。
ずっと翳を落としてたんだよね、僕の言葉が。
どんな気持ちで、いー君は毎日この電車に揺られていたんだろう。
どんな気持ちで、いー君は毎日学校と家を往復していたんだろう。
君が揺られた電車に揺られ続ける罪。
……そう、これは天と君が僕に与えた罰なのかもしれない。
君への贖罪が済むまで、僕は存分に電車に揺られないとね。
沢山の君の学友たちに囲まれ、一人で君への哀歌を歌い続けないとね。
分かってる……君に100万回ごめんなさいしなきゃいけないこと。
頭蓋骨が露出するまで、地に頭をすりつけ謝罪しなきゃならないこと。
でも、少しだけ時間がほしいんだ。
君の大切なママと、大切な妹を護ってあげる時間を。
そして君のような道を選ぼうとする若い子を、一人でも救ってあげられる時間を。
僕のための僕の時間はいらない。
君の大切な人たちに尽くす時間がほしいんだ。
僕がやらなきゃ。
僕が護らなきゃ。
もう少し……
もう少しだけ時間がほしい。
分かってる。
僕は今日も明日も明後日も……ずっと歌を歌い続けよう。死ぬまで歌い続けよう。
君のために哀しき鎮魂歌を。
君の大切な人たちを励ます勇ましき行進曲を。
だから……だからもう少し時間を頂戴ね、いー君。
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