いー君といっしょ

2015年11月20日……
最愛の17歳の息子を自死で失いました。
悲しみの記録と、彼の歩んだ道、そしてこれから残された家族三人の日々を記します。

君があの日かけた天秤を

(いまだ……痛いのは一瞬だ、飛び込め!)


駅に入ってくる快速電車。


大きい……そして速い金属の塊。


幻聴がいつもそう言って僕の背中を軽く押してくる。


お葬式の時バラバラだと困るし……お金をすごく請求されるし……


朦朧とした意識の中、なんとか踏みとどまり僕は電車に乗り込む。


カレンダーが前に進むごとに、僕は最近『もういいかな』という想いが強くなる。


幸せ?
……障害者が幸せになれるわけないじゃない。


努力?
……障害者が白髪交じりの頭になってから、何を訓練するの?
必死に頑張っても、やっと普通の人間レベルに追い付くだけでしょ?


……そうなんだよね。


最近、僕を終わらせることができる力強い鉄の塊に……いつも吸い込まれそうになるんだ。


遺して行く家族、そしてわんこ達……


一瞬の苦痛と引き換えに、二度と苦しまなくていい未来。


遺して行く家族、そしてわんこ達……


一瞬の苦痛と引き換えに、二度と苦しまなくていい未来……


どちらが苦しいのか、最近よくわからなくなってきたんだ。


いー君もこうやって、いろんなことを天秤にかけたのかな。


それとも僕がそうだったように、もう何も見えないまま虚無の世界を選んだのかな。


分かってる。天秤で物事を量ってちゃだめなんだ。


人はいつか終わる。それだけは確実にわかっていること。


早いか、遅いか、自ら決めるのか決めないのか……それだけのことなんだ。


前向きに生きていけば、いー君は喜んでくれる?


頑張って生きていけば、もう周りから誰もいなくならない?


……そんなこと、誰にもわからないよ。
結局は、自分を慰めてごまかしているだけかもしれない。


……頑張って歩いてみたけど。ちょっと疲れてきたなぁ。


駄目だよね。関係ないたくさんの人に電車に飛び込んで迷惑かけちゃ。


いつか幻聴に命令され、従う前に……
自分を先に〆なくちゃいけないんだよね。


右の天秤皿に、遺された人の悲しみ……


左の天秤皿に、苦しまなくていいもう二度と来ない明日。


いつか君が使ったかもしれない天秤が、僕の目の前で結果を出せずに、ゆらゆらと揺れている。


どっちに傾いてもいいから、早く決めようよ。


願わくば、あの日君が使った天秤と同じ天秤皿が下に傾きますように。