いー君といっしょ

2015年11月20日……
最愛の17歳の息子を自死で失いました。
悲しみの記録と、彼の歩んだ道、そしてこれから残された家族三人の日々を記します。

灰色の世界をひたすら漂う

ここ1カ月……ただの生ける屍と化していた。
なにも考えられない……考えたくない。


げんこつ山のたぬきさんを聞きながら、ブロックで遊ぶ小さい頃のいー君。
分かってる、あの日は帰ってこない。


小さな君を肩車をしながら、赤く染まる秋の野山を駆け回った楽しい思い出。
分かってるあの日は帰ってこない。


小学校の入学式……誇らしくカメラのフレームに収まる1年生の君。
分かってる、あの日は帰ってこない。


思春期になって、彼女のもとへと毎週逢いに行く、少し大人びた君。
分かってる、やっぱりあの日も帰ってこない。


分かってたはずなのに。
1日1日しっかりと家族と過ごす時間を刻んでいこうと思ったのに。


楽しい鮮明な風景は、時がたつにつれアスファルト色に変わっていく。


結婚して子供を作って……立派になった君。
そんな僕の愚想は、永遠にかなえられることはない。


僕が死ぬとき、君へ託す想い。やりきったと満足して目を閉じること。
そんな僕の愚想は、永遠にかなえられることはない。


前向きに生きていこう、残った家族を大切にしよう。
分かってる、実はそんなことかけらも思っちゃいない。


ただただ死ねる時を待っている。
僕はなんでまだ生きているんだろう。
頼んでもいないのに、なんで僕の心臓は勝手に動き続けるんだろう。


『あなたの任務は失敗しました』
『あなたの任務は失敗しました』
『あなたの任務は失敗しました』
『あなたの任務は失敗しました』
『あなたの任務は失敗しました』
『あなたの任務は失敗しました』


……赤い警告文字が、僕の心の中をただひたすら流れていく。


そうだ。


もうやり直すことはできないんだ。


帰ってこない時間。
かなえられない夢。
燃やし尽くすことのできない想い。


不完全燃焼の僕の抜け殻は……ずっと灰色の空間をさまよい続けている。


誰も幸せに出来なかった。
この世でなしえることは何もなかった。


いつまで続ければいい?
なにもない灰色の空間を、ただひたすらに漂い続けるのは。


神様、どこにあるんですか?
僕の命を止める電源スイッチは。


僕は任務に失敗しました。
どうすればこの命を終わらせることができますか?


いー君のように、自分で命を断つこともできない。
怖いのは嫌だ。痛いのは嫌だ。


だから漂い続けるんだ。
灰色の出口のない空間をひたすらに。


人は必ず死ぬ。時が来れば必ず死ぬ。


だから僕はずっと漂い続けよう。
いつかだれにも気付かれず、静かに溶けて静かになくなるんだろう。


誰にも一顧だにされぬ、アスファルト色の街に降った雪のように。


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