フラッシュバック
『いややぁ!……絶対嫌やぁ!』
嫁の心からの慟哭を聞いたのは、人生で一度きり……
いー君を斎場で焼くときの、あの時だけだったかもしれない。
豪華でこぎれいな斎場、曇り空、嫁のお母さんがひきつけを起こし倒れた悲鳴。
いー君のお棺に『点火します』と係員さんが言ってボタンを押したあの瞬間。
そう……
全ては克明に覚えている。
僕はアスペルガーさん。
哀しい記憶、辛い記憶だけはいつでも鮮明に思い出せるんだ。
いー君の肉体がこの世から消滅する瞬間……
僕はもう涙も枯れ果てて、泣き叫ぶ力さえ残ってなかった。
慟哭する嫁の背中をさする……
いい言葉が思いつかない。
仕方ないやん、笑って送ってあげよう、とかそんなこと言ってたっけかな。
哀しい悪夢のような地獄の数日間……
僕はいまでも簡単に思い出せるんだ。
あの時、父親としてどうふるまうべきだったか……
答えはないんだ、間違いないのはベストは尽くしてなかった。
曇り空、泣き声、空っぽの心……
雨が降ってきたんだよな、途中で。
そう、僕の代わりに、空が涙を流してくれたあの日。
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